『フォークナー短編集』(龍口直太郎訳)
ずっと読むべき作家リストに入りっぱなしだったが、手始めに短編から読んでみる。
収録されているのは以下の作品だ。
- 嫉妬
- 赤い葉
- エミリーにバラを
- あの夕陽
- 乾燥の九月
- 孫むすめ
- バーベナの匂い
- 納屋は燃える
読む前からわかっていたが、やはりフォークナーは長編向きの作家だ。短編でも描写の鮮烈さは感じるものの、特にそれが短編である必要はないというか、長編の方がより言葉に重みを持たせられるだろう。
別々の作品なのに登場人物が関連しているのがフォークナーの作品の特徴だ。『あの夕陽」という作品に出てくる語り手の少年が成長して長編『響きと怒り』、『アブサロム、アブサロム!』の語り手として登場するし、『孫むすめ』の中で命をおとすサトペン大佐の名前が『バーベナの匂い』にも登場する。そしてその『バーベナの匂い』の冒頭でその死を告げられるサートリス大佐から名前をとった少年が『納屋は燃える』の主人公として登場する。
短編でもほとんど誰かしら一人は不慮の死を遂げる。その血腥さはアメリカ南部の風土からくるものだろう。『バーベナの匂い』でも父親を決闘で殺されて復讐しないのは男じゃない的な描写がされる。
フォークナーが生まれたのは1897年で南北戦争が終わってから30年以上後のことだが、彼の作品の登場人物はその敗北を背負い込んでいる。アメリカ英語で go south がおちぶれるという意味なのも宜なるかな。敗れたアメリカ南部はその後の太平洋戦争で敗れた日本と共通点が多い気もするが(というかこの太平洋戦争の勝利によってアメリカ南部はようやく敗戦のくびきから抜け出せたのかもしれない)、日本は驚くべきスピードで敗戦を忘れてしまった。日本にも中上健次などフォークナーの影響を自認する作家は多いけど、彼らの作品で敗戦がどう描かれているのか興味深い。今度読んでみよう。