ポール・オースター編(柴田元幸他訳)『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』
「物語を求めているのです。物語は事実でなければならず、短くないといけませんが、内容やスタイルに関しては何ら制限はありません」とポール・オースターがラジオで呼びかけて全米から寄せられた179の物語を集めたのが本書。
死、孤独、悔恨、恐怖、信じられない偶然、家族、恋愛、ユーモアなど物語のテーマはさまざまで、それぞれ固有の体験としての強さをもっている。
読んでみて、感じたことが二つある。
ひとつめは、アメリカという国のもつダイナミズムや多様性だ。主人公たちは、さまざまな街を転々とし、さまざまな職業につき、さまざまな人々と出会う。これを書いている折しも、オバマが大統領就任演説をしたところだけど、この本を通してもアメリカのすごさを垣間見ることができた。
もうひとつは、ポール・オースターの出演するラジオ番組のリスナーになるような人たちだからかもしれないけど、みんな文章が驚くほど意識的で技巧的だということだ。プロの小説家の作品みたいに洗練はされていないけど、書き手の個性が前面にあらわれ、比喩表現などの技巧を使いこなしている。日本で同じようなことをやったら、良くも悪くも、作文コンクールで賞をとるような、素朴な文章が集まってしまいそうだ。これは文化の違いなんだろうか、それとも教育?