2024年4月に亡くなったオースターが2017年に完成させた最後から2つ目の長編小説。800ページ弱、厚さ4.5cm、重さ1キロある大著。持ち運ぶだけで一苦労だった。読後感には重さからの解放感が含まれてしまう。 ...
ポール・オースターが他の長編小説発表前に別名で書いたハードボイルド探偵小説。 検察をやめて探偵業を営むマックス・クラインに、元メージャーリーガーで政界進出が噂される、ジョージ・チャップマンが依頼をもちかけてくる。心当たりのない脅迫状が届いたというのだ。クラインは、5年前チャップマンの選手生命を奪った事故が関係しているのではないかと調査をはじめる。 ...
ポール・オースターの新作と思ったが、原書は2009年刊行らしい。10年前だ。それでも、現在邦訳されている小説の中で一番新しいことは間違いない。 ...
年老いた男が閉ざされた部屋の中でもうひとつの世界の物語と向き合うという、前作『写字室の旅』と対になる内容。大きな違いは、自分の名前を含めて記憶をなくしてどこともわからぬ部屋に閉じ込められるという抽象的な設定だった前作とちがって、今回はリアルなこと。 主人公オーガスト・ブリルは72歳。妻と死に別れ、車の事故で脚を怪我して、今は娘と孫娘と3人で暮らしている。不眠症に悩まされる彼は夜な夜な頭の中である物語を綴る。『写字室の旅』で主人公が読まされたのと同じくそれは戦争の物語だった。ただしどこかわからない国ではなくアメリカの戦争。それは911がなかったかわりにアメリカが内戦となっているパラレルワールドの物語だった。こちらの世界から突然あちらの世界に移動させられたブリックという奇術師は、奇妙な指令を受けてまたこちらの世界に送り返される。内戦の大元であるブリルという老人を殺せと命令されるのだ……。 ...
『写字室の旅』に触発されて再読。『ガラスの街』と『幽霊たち』とともに、ニューヨーク三部作を構成する作品。三部作といってもストーリーはまったく関連していない。ミステリー仕立ての構成が共通しているのと、舞台がニューヨークであること、そして『ガラスの街』の至要な登場人物が本書にも端役として登場することくらいだ。初めて読んだときはちょっと肩すかしをくわされたような気がしてしまったのだが、『ガラス』と『幽霊』はちょっと前に再読してあらためてその構成のたくみさに気がついた。 この『鍵のかかった部屋』は全二作と比べるとリアルな設定、人物造形で、物語の中に没入させられる。もう10年以上あってない幼なじみファンショーの妻を名乗る女性から詩人工のところに突然手紙が届いて、ファンショーが失踪してもう何ヶ月もたつと書いてある。失踪したときはおなかのなかにいた子供もうまれてすくすく育っている。ファンショーが残した小説や文章があるので、みてほしいと言う……。 ...
ポール・オースター、柴田元幸のコンビは翻訳という感じがしない。もとから日本語で書かれたみたいにすいすい読み進めてしまう。 老人がひとり部屋の中で深い物思いにふけっている。彼は自分がなぜそこにいるのか覚えていない。自分が何者なのか、名前すら思い出せない。何人かの人々が彼を訪ねてくる。彼らは自分がかつて老人によって任務を負わされたという。老人は彼らを明確には覚えてないが、胸の奥に罪悪感を感じる。机の上には古びた写真と未完のタイプ原稿。 ...
大病から回復したばかりで家庭も仕事もなくした初老の男性ネイサンが終の住処を求めてニューヨークのブルックリンで暮らしはじめる。あにはからんや、彼は色々な人々と出会い、これまでにない経験を重ねる……。 ...
「私は長いあいだ病気だった。退院の日が来ると、歩くのもやっとで、自分が何者ということになっているかもろくに思い出せなかった。頑張ってください、三、四ヶ月努力すればすっかり元気になりますから、と医者は言った。私はその言葉を信じなかったが、とにかく忠告には従うことにした。一度は医者たちにも匙を投げられた私だ。彼らの予測を裏切って、不可解にも死にそこなったのだから、未来の生活が待っていることにして生きるしかないじゃないか?」 ...
初めて読んだポール・オースターの本を再読。 開業したばかりの探偵ブルーのもとにホワイトという男が依頼をもちこんでくる。ブラックという男を見張り、必要がなくなるまで続けてくれという。簡単そうな仕事に見えたが。ブラックはほとんどアパートから外に出ず、本を読み、ノートに何かを書きつけている。その孤独は、ブルーをも巻き込み、彼は自分の過去の記憶や内面と向き合わざるを得なくなる。 ...
「物語を求めているのです。物語は事実でなければならず、短くないといけませんが、内容やスタイルに関しては何ら制限はありません」とポール・オースターがラジオで呼びかけて全米から寄せられた179の物語を集めたのが本書。 ...
息子二人と妻を航空機事故で一度に亡くしたデイヴィッド・ジンマーは、ヘクター・マンという男のサイレント時代の映画との出会いにより、破滅から救われる。ジンマーは、全米各地やヨーロッパに散らばったヘクターの映画のコレクションを訪ね歩き、一冊の本にまとめる。ヘクターは60年以上前に突然行方不明になったままだった。ところが、ある日、ヘクターの妻を名乗る女性から手紙が届き、ヘクターはまだ存命であり、あなたに会いたいといっているので、招待を受けて欲しいという。ジンマーは疑心暗鬼のまま何度かやりとりが発生するが、ある雨の夜、帰宅する彼を、顔にあざのある美しい女性が待ち構えていて、すぐいっしょにヘクターのところにきてほしいという……。 ...
1983年から2002年に書かれたポール・オースターのエッセイをまとめたもの。若いころの貧乏話、時事問題に対するメッセージなどあるけど、一番大きなパートを占めるのはオースター自身および彼の知り合いが経験した「信じられない偶然」の数々だ。 ...
「あてもなくさまようことによって、すべての場所は等価になり、自分がどこにいるかはもはや問題でなくなった。散歩がうまく行ったときには、自分がどこにもいないと感じることができた。そして結局のところ、彼が物事から望んだのはそれだけだった――どこにもいないこと。ニューヨークは彼が自分の周りに築き上げたどこにでもない場所であり、自分がもうそこを二度とそこを去る気がないことを彼は実感した」の「ニューヨーク」を「東京」におきかえると、ぼくのことかと思ってしまったが、「歩くこと」がこの小説のテーマの一つだ。 ...
人の言葉(といっても英語だけだが)がわかる犬ミスター・ボーンズが、飼い主ウィリーと死別する前後の遍歴をたどるロードムービー的なストーリー。ポール・オースターらしく夢と現実が交錯しながら物語が語られる。ぼくは犬より猫派だが、猫と旅をするのは難しい。旅をするならやはり犬だ。 ...
ポール・オースターの初期のエッセイを中心に編まれたアンソロジー。原書は出版社が変わったり版を重ねるごとに内容が追加されているらしい。本書も文庫化にあたって、3編追加されている。 ...
小説を発表する前の初期に書かれた自伝的要素の入ったエッセイ。『孤独の発明』という統一したタイトルがつけられているが、収められている二編『見えない人間の肖像』、『記憶の書』は文章のトーンも違うし、別の作品と考えた方がいいと思う。 ...
才能ある作家だったサックスという男が、いくつかの偶然の積み重ねから、幸福な家庭を投げ捨てて、全米の自由の女神を破壊してまわるテロリスト(人の命は奪わず、メディアを通じてアメリカという国のありかたを改めようというメッセージを流す)になり、結局は爆死してしまう。その事故を知った、やはり作家である友人の目から、回想という形で物語は語られてゆく。 ...