ポール・ベンジャミン(田口俊樹訳)『スクイズ・プレイ』

ポール・オースターが他の長編小説発表前に別名で書いたハードボイルド探偵小説。 検察をやめて探偵業を営むマックス・クラインに、元メージャーリーガーで政界進出が噂される、ジョージ・チャップマンが依頼をもちかけてくる。心当たりのない脅迫状が届いたというのだ。クラインは、5年前チャップマン...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『インヴィジブル』

ポール・オースターの新作と思ったが、原書は2009年刊行らしい。10年前だ。それでも、現在邦訳されている小説の中で一番新しいことは間違いない。 第1部は語り手アダム・ウォーカーが1967年におきたルドルフ・ボルンという興味深い人物との出会いと、そのことによっておきる偶発的な事件の一...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『闇の中の男』

年老いた男が閉ざされた部屋の中でもうひとつの世界の物語と向き合うという、前作『写字室の旅』と対になる内容。大きな違いは、自分の名前を含めて記憶をなくしてどこともわからぬ部屋に閉じ込められるという抽象的な設定だった前作とちがって、今回はリアルなこと。 主人公オーガスト・ブリルは72歳...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『鍵のかかった部屋』

『写字室の旅』に触発されて再読。『ガラスの街』と『幽霊たち』とともに、ニューヨーク三部作を構成する作品。三部作といってもストーリーはまったく関連していない。ミステリー仕立ての構成が共通しているのと、舞台がニューヨークであること、そして『ガラスの街』の至要な登場人物が本書にも端役と...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『写字室の旅』

ポール・オースター、柴田元幸のコンビは翻訳という感じがしない。もとから日本語で書かれたみたいにすいすい読み進めてしまう。 老人がひとり部屋の中で深い物思いにふけっている。彼は自分がなぜそこにいるのか覚えていない。自分が何者なのか、名前すら思い出せない。何人かの人々が彼を訪ねてくる。...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『ブルックリン・フォリーズ』

大病から回復したばかりで家庭も仕事もなくした初老の男性ネイサンが終の住処を求めてニューヨークのブルックリンで暮らしはじめる。あにはからんや、彼は色々な人々と出会い、これまでにない経験を重ねる……。 一貫して偶然という神によってはりめぐらされた糸の精緻さと鋭い鎌の一撃を描いてきたオー...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『オラクル・ナイト』

「私は長いあいだ病気だった。退院の日が来ると、歩くのもやっとで、自分が何者ということになっているかもろくに思い出せなかった。頑張ってください、三、四ヶ月努力すればすっかり元気になりますから、と医者は言った。私はその言葉を信じなかったが、とにかく忠告には従うことにした。一度は医者た...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『幽霊たち』

初めて読んだポール・オースターの本を再読。 開業したばかりの探偵ブルーのもとにホワイトという男が依頼をもちこんでくる。ブラックという男を見張り、必要がなくなるまで続けてくれという。簡単そうな仕事に見えたが。ブラックはほとんどアパートから外に出ず、本を読み、ノートに何かを書きつけてい...

ポール・オースター編(柴田元幸他訳)『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』

「物語を求めているのです。物語は事実でなければならず、短くないといけませんが、内容やスタイルに関しては何ら制限はありません」とポール・オースターがラジオで呼びかけて全米から寄せられた179の物語を集めたのが本書。 死、孤独、悔恨、恐怖、信じられない偶然、家族、恋愛、ユーモアなど物語...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『幻影の書』

息子二人と妻を航空機事故で一度に亡くしたデイヴィッド・ジンマーは、ヘクター・マンという男のサイレント時代の映画との出会いにより、破滅から救われる。ジンマーは、全米各地やヨーロッパに散らばったヘクターの映画のコレクションを訪ね歩き、一冊の本にまとめる。ヘクターは60年以上前に突然行...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『トゥルー・ストーリーズ』

1983年から2002年に書かれたポール・オースターのエッセイをまとめたもの。若いころの貧乏話、時事問題に対するメッセージなどあるけど、一番大きなパートを占めるのはオースター自身および彼の知り合いが経験した「信じられない偶然」の数々だ。 オースターの小説では偶然が大きな役割を果たし...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『ガラスの街』

「あてもなくさまようことによって、すべての場所は等価になり、自分がどこにいるかはもはや問題でなくなった。散歩がうまく行ったときには、自分がどこにもいないと感じることができた。そして結局のところ、彼が物事から望んだのはそれだけだった――どこにもいないこと。ニューヨークは彼が自分の周...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『ティンブクトゥ』

人の言葉(といっても英語だけだが)がわかる犬ミスター・ボーンズが、飼い主ウィリーと死別する前後の遍歴をたどるロードムービー的なストーリー。ポール・オースターらしく夢と現実が交錯しながら物語が語られる。ぼくは犬より猫派だが、猫と旅をするのは難しい。旅をするならやはり犬だ。 ラストは、...

ポール・オースター(柴田元幸、畔柳和代訳)『空腹の技法』

ポール・オースターの初期のエッセイを中心に編まれたアンソロジー。原書は出版社が変わったり版を重ねるごとに内容が追加されているらしい。本書も文庫化にあたって、3編追加されている。 エッセイの大半は小説発表前に書かれた、日本であまり紹介されていない詩人たちに関するもの。その部分は正直退...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『孤独の発明』

小説を発表する前の初期に書かれた自伝的要素の入ったエッセイ。『孤独の発明』という統一したタイトルがつけられているが、収められている二編『見えない人間の肖像』、『記憶の書』は文章のトーンも違うし、別の作品と考えた方がいいと思う。 『見えない人間の肖像』はオースターの父親が亡くなった直...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『リヴァイアサン』

才能ある作家だったサックスという男が、いくつかの偶然の積み重ねから、幸福な家庭を投げ捨てて、全米の自由の女神を破壊してまわるテロリスト(人の命は奪わず、メディアを通じてアメリカという国のありかたを改めようというメッセージを流す)になり、結局は爆死してしまう。その事故を知った、やは...