シオドア・スタージョン(若島正他訳)『海を失った男』

海を失った男 (河出文庫 ス 2-1)

8編からなる短・中編集。読む前は、シオドア・スタージョンは甘ったるい通俗的なSFを書く人だと勝手に思い込んでいたけど、もちろんそれは大間違いのこんこんちき号だった。

長編を読んでないのであれだが、たぶんストーリーテリングではなく文体やテーマ性で読ませるタイプだ。その関心はSF作家がいかにも好んで取りあげそうな根源的なところではなく個々の人間およびその間の関係性にある。偶然だと思うけど、本書に収録されている作品には3人の人間(およびそれに類するもの)の関係性にまつわる話が多かった。

『ビアンカの手』のランと、ビアンカの右手、ビアンカの左手。その名の通り『三の法則』の三位一体のエネルギー生命体。『そして私のおそれはつのる』のドン、ジョイス、ミス・フィービー。恋愛に代表されるような1対1の閉じた関係から、より開かれた人間同士の関係を模索するような作品だった。

『墓読み』は非SFの若干オカルトの趣のある作品で、読み終えた瞬間は、あっけにとられてなにか物足りない感じがしてしまったが、実はある凡庸な決まり文句が、すがすがしさにあふれた言葉だというのを教えてくれる作品で、そのすがすがしい力でオカルト趣味やノスタルジーをあっさり否定してしまう。

表題作の『海を失った男』も幻想的ですばらしい。