川上弘美『古道具 中野商店』

古道具中野商店 (新潮文庫 か 35-7)

一時期川上弘美の作品を読みふけったことがあったが、いつの間にか5年以上ごぶさたしていた。作風的には寡作という印象があるが実はかなり多産で、その間に何冊も本がでていたようだ。

中野商店というアンティークというより古道具という言葉が似合いそうな骨董屋を舞台に、そこで働く人々や訪れる人々の日常の機微を描いた長編小説だ。中心になるのはいくつかの色恋話なのだけど、陰湿さや深刻さはなく、からからとかわいた音をたてながら物語は流れてゆく。幻想的なエピソードがまったく出てこないことを含めて『センセイの鞄』と同じトーンの作品といっていいだろう。

考えてみると川上弘美を読まなくなったのは、彼女の作品に「湿度」を感じ始めたからで、それが少ない分、これは読みやすかったが、何となく物足りないというのも偽らざる感想で、唯一物語にざらつきを与えているタケオという男の存在も、結局最後にはそのざらつきを若気の至り的に否定する形で収まってゆく。読後感は決して悪くないし、好きなのだけど、魂でも襟元でもなんでもいいからもう少し揺さぶってほしかった。