レイモンド・チャンドラー&ロバート・B・パーカー(菊池光訳)『プードル・スプリングス物語』

プードル・スプリングス物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ハードボイルドの旗手レイモンド・チャンドラーが急死したため未完のまま遺された作品を、30年後に同じハードボイルドのスペンサーシリーズで有名なロバート・B・パーカーが完成させた。未完といっても、チャンドラーが遺したのは全41章中の4章だけで、書かれているエピソードはおおむね以下の3つだけだ。

  1. マーロウは『ロング・グッドバイ』に登場したリンダ・ローリングという大富豪の娘と結婚してプードル・スプリングスというロス近郊の高級住宅地に住もうとしている
  2. それでもマーロウは私立探偵の仕事を続けようとする
  3. リップシュルツという男に仕事をもちかけられる(内容不明)

だから、これはフィリップ・マーロウというキャラクターを借りたパーカーの作品と考えた方が近いだろう。チャンドラーのような詩的なレトリックのきらめきはないし、マーロウがセンチメンタルな男なのは間違いないが今回のように甘々のセンチメンタリズムだけを唯一の根拠に行動することはありえないような気がするし、意外性がないほとんどないストーリー展開もどうかと思うのだが、でも少なくともこの物語の主人公はフィリップ・マーロウ……でなくても少なくとも同じにおいのする男で、彼が活躍する長編小説をもう一編余計に読めたのはうれしいことだ。

エンディングは『ロング・グッドバイ』の余韻を感じさせて、結構好きだ。