福永信『コップとコッペパンとペン』

コップとコッペパンとペン

難解なところはどこもないけど徹頭徹尾不可解な小説集。

カフェなんかで少し離れた席の会話が漏れ聞こえてきて、部分的にとてもおもしろいんだけど、何のことを話しているのかさっぱりわからない。興味をもって聞いているうちに情報量は増えていくが、整合しない点もそれにつれて増えていく。いつの間にか声が聞こえなくなって、謎とともにとりのこされる。という状況を経験したことが誰しもあるかと思うが(ぼくだけか?)、それと同じような気分にさせてくれる本だ。その宙づり感が気持ちいい。

ほかではみないようなユニークな作品だが、そのナンセンスなおかしみは、内田百閒とか安部公房に通じような気がした。不条理はとても笑えるのだ。