レイモンド・チャンドラー他(稲葉明雄訳)『フィリップ・マーロウの事件』
現代ハードボイルドの書き手たちが、フィリップ・マーロウのキャラクターを借りて書いた短編15編(文庫化にあたり序文や作品8つが割愛されている)と、チャンドラー自身が残したマーロウが登場する唯一の短編(そのほかのマーロウが登場する短編は発表後に探偵の名前がマーロウに書き換えられている)が掲載されている。
今回作品を寄せた作家の作品は何ひとつ読んだことがなかったので(名前を知っているのはサラ・パレツキーくらいだった)、どの程度それぞれの個性がでているのかよくわからなかったが、マーロウはおおむねマーロウだったような気がする。ただ、どのマーロウにも同じくらいの違和感を感じた。それはチャンドラー自身のマーロウも同じだった。
たぶん、「フィリップ・マーロウ」は固有名詞ではなく、「愛」とか「勇気」と同じような抽象名詞なのだ。ぼくはその一番目の意味に「道化役者」というのがあると思っていたが、それが載っている辞書はほとんどない。