京極夏彦『邪魅の雫』

邪魅の雫

これまでは個人あるいは集団がとりつかれた巨大な魔が引き起こす陰惨な事件を描いてきた京極堂シリーズだが、今回はごくありきたりの連続毒殺事件だ(それがありきたりに感じらるのもどうかしているが)。そしてその魔もとてもとても小さなもの―雫としてあらわれる。全体的にとてもこじんまりしているともいえるが、そのこじんまりさがとてもよかった。

謎は、あらかた解けたクロスワードパズルの中のどうしても埋まらないマスのような形で提示される。それがまた効果的なのだ。ふだん脇に控えている青木や益田といったサブパーソナリティーたちの活躍もおもしろい。

今回、京極堂が最後に祓うのは雫ではなく、自らを世界そのものと認識してしまう人間の愚かな錯覚だ。人間は雫以下の砂粒にすぎないのだ。