ニーチェ(氷上英広訳)『ツァラトゥストラはこう言った』

ツァラトゥストラはこう言った 上 岩波文庫 青 639-2ツァラトゥストラはこう言った 下 岩波文庫 青693-3

今を去ること永遠回帰半周ほど前、新潮文庫版の『ツァラトゥストラかく語りき』を舊字體や辞書にも載っていないような難解な用語、あふれかえる注釈に苦しめられながら、どうにか最後まで読み通したが、本はぼろぼろに黄色くなり、結局得られたのは妙な達成感だけだった。

今回、岩波文庫版を読んで驚いたのは、別に理解に苦しむような難解なことは何も書いてないということだ。訳すにあたってなによりわかりやすさを旨にしたというだけあって、言葉上の意味はすんなり入ってきたのだった。注釈がないのもいい。

ニーチェの思想そのものは少なくとも表面的には決して難解じゃない。要は、変化し続けるものとしての生命とその変化を生み出す原因としての力の肯定だ。でも、それは楽しいから肯定しろというものじゃなく、苦しいからこそ肯定しろというもので、「超人」とか「永遠回帰」とかいうのもつまりはそういうものだ。なんか、そこにやせがまんというか、むしろニーチェが徹底して攻撃した「弱者」が陥りがちなヒロイズムがあるような気がする。

ほんとうにニーチェ=ツァラトゥストラがいいたかったことは、二言で足りるんじゃないだろうか。ひとつは「高らかに笑え」。もうひとつは「軽やかに舞え」。