柄谷行人『世界共和国へ――資本=ネーション=国家を越えて』

世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて

電波ゆんゆん、でも良質な電波を受信して書かれた本だ。

日本を含む西側先進国がとっている社会システムをぼくなりに戯画化すると、市場という怪物と国家という怪物を戦わせて、その間にそれぞれのおいしいところをもらってしまおうというものだった。だが、それがうまくいっているように見えたのは、遠くで共産主義というもうひとつの怪物がいて、三つどもえになっている間のことで、共産主義が滅びた今では、市場と国家の悪い部分が野放図に育って、制御がきかなくなっているような気がしてきていた。と同時に、ありとあらゆる理想が嘲笑の対象になりさがってしまった。

本書は、市場、国家、それに加えてネーション(国家が統治機構であるのに対し、国民全員が属するとみなされる想像上の共同体)という現実を越えた理想をもういちど立ち上げ直そうとするものだ。そのために、市場、国家、ネーションがどういう力学のもと生まれ存続しているのかを、交換という観点から解き明かそうとしている。市場は商品交換、国家は略取と再分配、ネーションは互酬だといい、それぞれ共同体内部ではなく共同体と共同体の間に立ち上がるものだという。それを考慮しなかったため、マルクス主義運動は国家社会主義という全体主義に堕してしまった。

筆者が立ち上げようとする理想は、決して新しいものではなく18世紀末にカントが提唱した世界共和国のアイデアをパラフレーズしたものだ。とりあえず今現在のありかたとしては、それは国連主義という形をとるしかないようだ。だが、現実に抜け出せるかどうかは別として、市場、国家、ネーションの輪を抜け出す道を確保しておくことに越したことはない。理念的であっても、その道が存在することによって、市場、国家、ネーションが幾分なりとも制御しやすいものになるのは間違いないのだから。