Tom Stafford, Matt Webb『Mind Hacks ―実験で知る脳と心のシステム―』

Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステム

IT関連でかゆいところに手が届くテクニックを満載したシリーズ、オライリーのHACKSからITではなく人間の脳と心にスポットをあてた本がでた。もちろん単に知識を提供してくれるだけの本ではなくそれを読者が実際に試せるようになっている。

通して読んでわかるのは、ぼくたちが見たり感じたりしている「現実」というのはあるがままの世界の姿でなく、脳が再構成した姿だということだ。脳の脳による脳のための世界といったところだろうか。

コンピュータの性能が低かった時代にプログラマがさまざまな(ダーティーなものも含めて)テクニックを凝らしたように、脳もまたさまざまな裏技を駆使して整合性のとれた現実をぼくらに提供してくれている。目や耳からの情報の欠落を埋め、影から3Dの立体的な情報を構成し、反応の遅れをカバーするため未来の姿を予測し、ノイズの中から情報を読み取る。

それでたいていのケースではうまくいくのだが、特殊なケースだと錯覚を生じたりもするし、また数や確率、論理など扱うのが苦手なこともある。

だからといって、人間にわかることはたかが知れていると悲観するとか、逆に感じるままに生きればいいという尊大さに走る必要はなく、人間の脳はそういう制約をも乗り越えてゆく柔軟性をもっているのだと思う。むしろそういう弱みを理解して逆手にとることもできるのだ。無理して笑顔を作れば少しは楽しい気分になるとか、前向きな言葉を使って自分の感情を制御するHackもこの本に載っている。

というように考えさせてくれたり楽しませてくれたりともりだくさんな本だったが、ひとつ注文をつけると、英単語を使った実験は日本の学者を監修につけて日本語に置き換えたバージョンを載せてほしかったなと思う。

あとこの本を読むには以下のリンク集が必須なので、自分のメモ代わりに載せておく。