吉田修一『パーク・ライフ』

パーク・ライフ

上野公園で暮らすホームレスの生活を描いた作品……では断じてない。吉田修一の作品には、きちんとした仕事を持ち(カタカナ系の商品を扱う会社のサラリーマンかガテン系かに大別される)、人間関係をそつなくこなしている人間が多く登場する。『パーク・ライフ』の主人公もバスソープや香水を扱う会社で営業をしているサラリーマンだ。舞台もおしゃれな場所が多く、パークというのは日比谷公園のことだ。

ちょっと読むと、若者の日常をポップに描いた風俗小説のように読めてしまうけど、彼らはみな一様に言葉にできない違和感というか疎外感のようなものを感じており、それは言葉でなく鮮烈なイメージとなって物語の中に登場する。映画的なのだ。

『パーク・ライフ』は、電車の中のふとした出来事をきっかけに毎日決まった時間に日比谷公園で会うようになる男女の話。二人は互いの名前も職業も知ろうとはしない。ただ何気ない会話をかわすだけだ。公園を上空から俯瞰したイメージ、二人がはじめて公園の外で会った写真展の作品。ここでもイメージが大きな役割を果たしている。二人は交差点で別れてそれぞれの方向に進んでゆくが、最後に男が大声で叫ぶ。それはすぐに都会の波にかきけされてしまうが、不思議な決意だけが残る。

もう一編『flowers』という作品が収録されている。爽快感はないが、構成的にはこちらの方が手がこんでいる。妻と二人で上京した主人公は、故郷にいる従兄に似ているという理由で職場の先輩「元旦」に興味をもつ。二人には生花という共通の趣味があった。故郷、妻との生活、淡い友情。三つの静かな喪失が並行して語られてゆく。

★★★