『ポストカード・ラヴァーズ』 by Kazuo Ishiguro
なんとノーベル賞作家カズオ・イシグロ作詞のジャズナンバー。かわいらしいトーンのなかにぴりっと人生の皮肉がまじっている。カズオ・イシグロらしいリリックだ。
最近わたしはポストカード・ラヴァーになった
専門はあなたから届くカード
近頃そんなしょっちゅうはこないけど
届いたときにこれまで以上にうっとりする
思い浮かべるのは陽に照らされた波止場にいるあなた
ボートが戻ってくるのを待ち
さえない土産物屋の入口で
ポストカードスピナーを指でくるくる回す
暖かな夜にのんびりしながらカフェの片隅で
気楽に言葉や気持ちを綴る
たまたまその日、わたしに送りたくなったのだ
カードは全部とってある
ばらばらで整理はされてないけど
わたしたちがこんなポストカード・ラヴァーになっちゃうとはね
海や年月に隔てられて
すてきな旅の友は見つかった?
神さまが許してくれそうな幸福も?
あるいはこの灰色で雨ばかりの国にホームシックになって夕方の混雑の中家まで歩いてるのか
わたしが旅行中送ったカードはあなたのカードにはまったくかなわない
でも少なくともわたしの近況は伝えてる
ときどきは胸のうちを打ち明ける
太陽の下あちこちの辺境から送られたあなたのカードを振り返ると
あなたが送っている人生や
あなたがどんな人間になったかということは
ほとんどわからない
でもそこからはわたしたちの望みと恐れのなかにとっておいた
特別な場所をたどることができる
わたしたちがこんなポストカード・ラヴァーになっちゃうとはね
海や年月に隔てられて