一口カツ
Q
一口カツを注文したらとても一口で食べきれないような大振りのやつが出てきました。それはそれでうれしいんですが、果たしてそれを一口カツと呼んでいいのかどうか疑問がわいてきました。因果な性分です。一口のものとそうでないものを分ける合理的な基準はあるのでしょうか?
A
あまりに貧弱なエビフライで中に入っているのがほんとうにエビなのかという疑問に比べれば、はるかに幸福な疑問です。
確かに、片手で持ちにくい本がハンドブックと呼ばれることがあるように、一口では食べにくいサイズのカツも一口カツと呼ばれています。特に大口の人にあわせたというわけでもなさそうです。最初に考えついたのは、「一口」というのは単なる比喩な表現なのではないかということです。あたかも一口で食べられそうなサイズなので、一口カツ。いや、これはちがいますね。みるからに一口では食べられないのですから、比喩になっていません。
で、あっけなく思いついたのが、肉の大きな塊をまるごと揚げてあとから切ったのがふつうの一口でないカツで、あらかじめある程度小さなサイズに切ってから揚げたのが一口カツ、という、実は世界中でぼく以外はみんな気がついているんじゃないかという解答でした。つまり、サイズは必ずしも本質的でなく、一口かそうじゃないかは、切ってから揚げるか、揚げてから切るかのちがいです。
カツレツなんていう省略しないハイカラな名前がついている店では、塊を揚げたものを切らずにそのまま出してきますが、これは客がナイフで切り分けながら食べるのが前提なので、もちろん一口カツではありません。
ちょっとあまりな解答なので、一口メモ。一口カツは通常のカツに比べて、同じ肉の量なら、衣をまぶす部分の表面積が大きくなり、カロリー、脂質、炭水化物量ともに高くなります。
もうひとつ一口メモとしてカツレツの語源にふれておきます。
語源は英語の cutlet。cutletは揚げ物だけでなく、薄い肉片全般を指す言葉です。厚切りの肉を揚げたらcutletとは呼べない代わりに、薄ければ焼いても cutlet です。cutlet はフランス語の côtelette が変化したものといわれています。こちらはあばら骨付き背肉という日本ではあまり一般的でない肉の部位をさしています。côtelette とカツの違いに比べれば、一口かそうじゃないかなんてどうでもいいような違いですね。
このように一口メモというのもまず一口では終わらないものです。