THE SHAMPOO HAT『雨が来る』

作・演出:赤堀雅秋/ザ・スズナリ/指定席3000円/2002-09-21 19:00?/★★★

出演:日比大介、多門優、福田暢秀、野中孝光、赤堀雅秋、児玉貴志、温水洋一、みのすけ、松田弘子、新井友香

終わり間際。明かりが消えて、再び灯る。役者が挨拶するのかとばかり思っていたが、舞台の上はもぬけのから。実はそこには本来あるはずのものがなくて、そのことに気がつけば、確実に深く静かな感動が訪れてくれたはずなのだが、ぼくはそれに気がつくことができなかった。本来感じられるはずの感動を感じられないなんて。とりかえしのつかない後悔。いいわけをすると、ものが存在することは簡単にわかるが、存在しないことに気がつくのは難しい。

もともとは、松田弘子やみのすけ、温水洋一などよく知った役者が出ているという理由だけで観にいこうと思ったのだが、テレビの「演技者。」という深夜番組枠で放映された『アメリカ』というドラマ(赤堀雅秋作・演出)を見ているうちに俄然興味が募ってきた。

「静かなる演劇」の系譜に属しているようで、日常的な場面が舞台。青年団の芝居を観ていると、登場人物がみんな「ちゃんとした」人ばかりで驚くが、こちらはちょっとずれた人ばかりが出てくる。何らかの輝きを描こうとするのではなく「くすみ」のようなものにスポットライトをあてる。もともと内部に矛盾をはらんでいる人のあり様をさりげなく笑いとともに浮かび上がらせていくのはすごいと思う。

一応あらすじ。智子と登、中年夫婦二人が暮らす狭いアパートには、火事で焼け出された智子の弟夫婦が転がり込んでいる。智子は事故で下半身が不自由になっている。保険で賠償はすんでいるのだが、加害者の若い男は義務的に絵のモデルになるため智子の家に通う(と書くと性的な意味合いが含まれそうだが、そんなことは全然ない。智子は「仕返し」のためにそれをやっている)。カラスが大嫌いなのに、カラスのことを語らずにはいられない登。何があっても儀式のようにパチンコ屋に通い続ける弟夫婦。そのほかに、ボランティアの男性と、祈祷師とその助手。最後に起きる奇跡。ああ、なくなったものに気がつきたかった。

(『アメリカ』で前田愛から、この小太りの人もう二度と芝居に出さないでください、といわれていた役者がちらっと出ていた。)