イキウメ『新しい祝日』

新しい祝日

タイトルはあまり内容に関係ない。スーツ姿の男がオフィスでひとりで残業をしている。タバコを吸おうとしてライターがつかず、ふと訪れる空白の時間。突然デスクの間から道化服の男が這い出してくる。彼はオフィスの中のデスクも椅子もダンボールであることを指摘し、放り投げてみせ、ここがヴァーチャルな世界に過ぎないことを示唆する。そして自分は彼の友達だと自己紹介し、彼の赤ん坊時代、少年時代を追体験させる。

つまりクリスマス・キャロル+マトリックス的な展開。プレイバックの世界の中で汎一と呼ばれる彼は、結局のところ、周囲の理不尽さに戸惑いつつもあらがうことはせず順応して成功していくのだった。その過程の中で道化服姿の友達はドロップアウトして汎一の人生からは消えてしまっていた。

クリスマス・キャロルとは違って投げかけられるメッセージは明確でも単純でもない。汎一はこの世界の虚妄性や自分のこれまでとってきた真実から目をそむけて周囲に順応する態度が明らかになったあとも、何も変わらず、そのままこの世界で暮らし続けようとする。出て行けるのは強い人間だ。汎一のように何事もそつなくこなせるが特別な能力のない人間は今いる場所で周囲と同調しながらやっていくしかないのかもしれない。この作品はそんな汎一を肯定もしなければ否定もしない。道化の旧友との再会は彼に果たして何をもたらしたのだろうか?

作・演出:前川知大/東京芸術劇場シアターイースト/指定席4200円/2014-12-13 18:00/★★★

出演:浜田信也、安井順平、伊勢佳世、盛隆二、大窪人衛、岩本幸子、森下創、橋本ゆりか、澄人