三条会『セチュアンの善人』

セチュアンの善人

観劇ダブルヘッダーによる疲労と、直前にワインを若干多めにのんでしまったため集中力を欠いていたことをまずお詫びしなくてはいけない。

それでもちゃんと内容は把握できた。神様がセチュアンの町でシェン・テという貧しい女性に出会い、彼女を善人と認め、これからも正しく生きていくようにとまとまったお金を渡す。しかしまわりの困っている人を助けたり彼女自身の生活を成り立たせたりするためには、善人のままではいられない。そこで彼女はビジネスライクで冷徹なシェイ・タという従兄の人格を作り出して変装することを思いつく……。

ブレヒトは社会主義者でその主義に沿ったわかりやすい寓話みたいな作品を書いた人という印象があるが、これもその例にもれない作品だ。構成や演出もあるかもしれないけど、社会主義が崩壊して右がかった人たちの妄想の中にしか残ってない現在からみると、シェイ・タは特に冷徹には思えず、混沌に陥りそうな社会をなんとか維持していこうとするそれこそ善意の人に見えてしまう。そういうふうに見えてしまうことの中にこの作品が現代においてもつ意味や批評性があるのかもしれない。

神様(原作では3人だが今回は1人)役の志賀亮史さんが開演前から出ずっぱりで、狂言回し的な役割をしているのがおもしろい趣向だった。みている間は彼がこの劇団の主宰の人で毎回こういうスタイルなのかと思ったが、彼は別の劇団の演出をしている人で、今回は客演とのこと。シェン・テを翻弄する男性たちを可憐な女性が演じていたのもユニークな演出。彼らは男性の困った部分を戯画的に体現しているはずなのに、そこがすっぽり抜け落ちていたのが、不思議な感覚だ。あと、歌。昭和歌謡というのとは違うけど若干ノスタルジックな耳なじみがいい歌がところどころで流れ、出演者がそれにあわせて歌詞を口ずさむ。ちょっとミュージカルしていた。

総じて、不思議な興味深い舞台だった。

作:ベルナルド・ブレヒト、構成・演出:関美能留/ザ・スズナリ/自由席3300円/2014-06-07 19:30/★★

出演:志賀亮史、大倉マヤ、平川綾子、大谷ひかる、渡部友一郎、立崎真紀子、羽鳥嘉郎、小田尚稔、平井優子