水素74%『荒野の家』

これまでシュールで抽象的な人間関係を描いてきた田川啓介が、若干リアルに寄って家族というものに向き合おうとした作品。

引きこもりの息子、共依存の母親、家庭から逃避している父親、嫁ぎ先から一時帰宅の娘の4人家族。父親は母親に内緒で大山登山スクールというスパルタ施設に息子を送り込もうとする。大山登山スクールはその名の通り戸塚ヨットスクールを彷彿とさせる差別的で暴力的な団体なのだが、実際彼らにとっての希望はこれしかないのだ。息子も最後は自ら参加しようとする。父親は感化されてこれまでの不満をぶちまけ父権的にふるまおうとするが、それが家族の最後のたがをはずすことになる。娘は夫をペットのように扱い、人間として向き合うことができない。

リアルな家族というか、典型な病理を戯画化した姿ではある。ただこの閉塞感はリアルだった。いつものシュールさはほぼ影を潜めていたが、自分の義父の面倒をみてくれといってやってくる隣家の、家族を知らないという女性が唯一のシュールで、家族という不可解なものを際立たせるポジションだった。

いつもはまとまりがないと思っていたが、今回はまとまりがよすぎる印象。もっとノイズがあっていい。

見終わってから思ったが、これは家族の物語であると同時に今の日本の現状としても読める。右翼的で差別的なものがおかしいのはわかっているんだけど、わずかでも希望を与えてくれるのはそういう存在しかないという悲しい現実だ。

作・演出:田川啓介/こまばアゴラ劇場/自由席2800円/2014-02-15 18:00/★★

出演:永井秀樹、高木珠里、玉田真也、石澤彩美、近藤強、吉田亮、高田郁恵、野田慈伸