中野成樹+フランケンズ『寝台特急"君のいるところ"号』
原作:ソーントン・ワイルダー、誤意訳・演出:中野成樹/こまばアゴラ劇場/自由席2800円/2010-05-22 15:00/★★
出演:福田毅、石橋志保、洪雄大、田中佑弥、野島真理、村上聡一、小泉真希、斎藤淳子、竹田英司
はじめてのフランケンズ。海外の戯曲をストーリーの骨格は忠実に、細部を自由に作り替えて、ミニマルなセットの中で想像力を駆使して演じるのがコンセプト。
ニューヨークからシカゴへ向かう寝台列車の中、B寝台の乗客たちを軽く描写してから、メインの個室の2組に視点が移動する。妻が病弱な若夫婦と、不思議なものが見えてしまう能力のせいで施設に預けられようとする少女とそのつきそい。若夫婦の妻は食堂車で倒れ、医務室に運ばれる。結局亡くなってしまうのだけど、魂がさっきの少女にはみえて……というこれだけとりだすとちょっと薄い感じのストーリー。
でも演出(といってもどこまでが原作で指定されていてどこからが中野成樹の創意かは厳密にはわからないけど)はけっこうおもしろくて、このストーリーの中を、駆け足で進んでみたり、立ち止まってみたり、巻き戻してみたり、物語の外に出て関係ないことをやってみたり、とかなり自由に素材を料理していた。洗練されている部分とベタッとした部分が混じってほんとうはどっちをやりたいのかなと思わなくもないが、そのどっちつかずなところも小劇場らしくて悪くないと思う。楽しかった。
この作品は “Wi! Wi! Wilder! 2010” というワイルダーの魅力を伝えるイベント企画の皮切りということなのだけど、その発起人に中野成樹と、この間岸田戯曲賞を受賞した柴幸男が名前を連ねていた。それでいまさらながらにわかったことが、柴幸男におけるワイルダーの影響。彼の作風の原点はワイルダーにあって、けっこうがちにウェルメイドといっていいものだったのだ。(思えば、受賞作の『わが星』もワイルダーの代表作『わが町』へのオマージュだった。)中野成樹もワイルダー好きを公言しているけど、今回、そのウェルメイドな世界をそのまま再現することはしなくて、一歩引いていた。柴幸男はがちだ。それが二人の世代の差(中野成樹が9歳年上の1973年生まれ)なのかなんなのか興味深い。