サスペンデッズ『g』
作・演出:早船聡/ザ・スズナリ/指定席3000円/2011-08-06 19:30/★★
出演:田口朋子、佐藤銀平、伊藤総、佐野陽一、白州本樹、尾浜義男
情が細やかで人間以上に人間的なアンドロイドがふつうに人間社会に溶け込んで働いている近未来が舞台。それ以外の設定はそのまま現代と同じで、不景気が続いて特に若者たちは職にありつくのも大変だし、「第2」の原発事故が起きてからそれほど時間はたってないようだ。
おそらく事故が原因で肉牛の飼育を続けられなくなった葉子が都会に出てきて職を探す。彼女は美容師の隆司と知り合いマルチ商法に勧誘される。葉子は怒るが、自分の店をもって誰もが立ち寄れる場所にしたいという隆司の夢をきいて、共感し、彼とつきあうことになる……。
終盤、隆司が、自分の店をもったとしてもマルチ商法をやめることはできない、システムの中心にとにかく近づくしかない、というようなことをいうんだけど、これはかなり胸に響く台詞だった。ひとつには、実際、社会がマルチ商法以上の理想を提供できていないというお寒い現状をあらわしていて、もうひとつは、「システム」というのがマルチ商法の狭い世界ではなく、この社会システム全体のことをいっているように聞こえたからだ。資本主義であるか社会主義であっても、中心が周縁部から搾取することによってシステムが稼働する。マルチ商法にはまるなんてしょうがないなと、馬鹿にしていた、ぼくたち自信がその嘲りの対象になってしまったような気がしたからだ。ただ、そのシステムがシステムとして姿をあらわすのは、それがうまく働かなくなってきたからだ。うまく稼働していれば透明な存在で、搾取の構造は表には出ないのだが、その働きが滞ると、システムは、村上春樹の壁と卵の比喩みたいに、壁としてその姿をあらわす。
最後は、アンドロイドによる、苦い、生命賛歌で幕がおりる。けっこう、このシーンも演劇的でよかった。