『ネジと紙幣』
作・演出:倉持裕/天王洲銀河劇場/A席6000円/2009-09-21 12:30/★★★
出演:森山未來、ともさかりえ、田口浩正、根岸季衣、長谷川朝晴、江口のり子、細見大輔、野間口徹、満島ひかり、小林高鹿、近藤智行、吉川純広
近松門左衛門の『女殺油地獄』を下敷きに、舞台を江戸時代の油屋から現代の町工場に移した作品。一見何一つ不自由のない幸せそうな主婦が、幼い頃から目をかけてきた向かいの店の放蕩息子に殺されるというストーリーだ。
原作でどうかはわからないけど、今回の演出では、母性本能とほのかな恋愛感情のいりまじった気持ちを想像力を広げてその中で満たそうとするような、自由な心を持った女に対し、男は「経済」の論理に縛られているように描かれている。女をとられそうになったから形式的にその分相手の男を痛めつけなくてはならないとか、気まぐれに100万円を要求されたら、律儀に殺人を犯してまでその額を調達するとか、徹頭徹尾損得勘定の原理に忠実に行動しているのだ。しかも、それはリアルな損得とは無縁で彼の中でしか通用しない子供じみたものだ。彼は、世の中のルールとちがうルールで生きている。だから、彼はずっと失敗し続けるのだ。
森山未來は、そんな男の表面上のつっぱりと実質的な弱さをしなやかに演じていて、将来有望だと思った。