岡崎藝術座『森ノ宮アンナのおかなしみ旅行記』

なんとなくワーク・イン・プログレス的な雰囲気を感じてあまり期待せずにみたのだけど、おそらく今年一番セリフに強さと自然さを感じた作品だった。
3人芝居だ。まだまだ駆け出しの役者桃谷の自己紹介からはじまり、白装束で「亡霊」と呼ばれている女性があらわれ、漫才のような掛け合いがはじまる。彼女は記憶も記録も持たず自分が誰なのかわからない。そこに第3の人物ニーナがあらわれる。彼女は自分の物語を友だちの物語として語っているようだ。役者としての人生に見切りをつけ全国各地を旅している、そんな彼女が、もう旅をやめようと思ってという。このままだと、オーバーツーリズムのせいで自分の中にわきあがる排外主義に飲み込まれてしまうというのだ。
語りの内容よりも語り口に引き込まれる。聞き手の存在は物語が単なる予定調和に陥らないように場を荒らす。演劇のおもしろさってこういうことだったと、ミニマルに確認させてくれる作品だ。
演劇の裾野をひろげるのも大事なのだが、それはもっとポピュラリティのある作品にまかせてもよくて、届けるべき人のところに着実に届いてほしいと思った。そういう作品だ。
作・演出:神里雄大/森下スタジオ/前売。自由席3500/2025-12-05 20:00/★★★
出演:矢野昌幸、浦田かもめ、上門みき