『無駄な抵抗』

無駄な抵抗

主催は劇場だが脚本、演出、出演者、イキウメづくしのほぼイキウメ作品。

あるときからまったく理由の説明がなく列車が通過するようになってしまった駅の前の広場が舞台。元テレビの占いコーナー担当者で今はカウンセラーをしているサクラは依頼者の山鳥メイと会うが彼女は小学生の時の同級生だった。メイはサクラに教室であなたは、人を殺すという予言をされ、その予言を成就させないためこれまで人と深くかからわないように注意を払って生きてきたと告白するが、サクラはまったくそのことを覚えてなかった。

ギリシャ悲劇の最大のテーマである運命と個人の意志との葛藤を現代に移し変えた作品。ラストでメイは運命から逃れる呪いから自分を解き放ち、運命と自分の意志を一致させる選択をする。

停まらない電車というのは古代ギリシャではなく現代日本への比喩だと思う。理不尽なことがあっても誰も声をあげず既成事実として受け入れてしまう。当然すべき抵抗を無駄と切り捨てて怠っている状況の上に現在の衰退がある。舞台の上でとられた抵抗の形は過激だがこのままではその行動が正当化されかねないという警告だ。

浜田信也さんが演じた大道芸人が狂言回し的に物語を進行させる演出がよかった。

アクチュアルないい芝居を見た帰り道は背筋が伸びる気がする。

作、演出:前田知大/世田谷パブリックシアター/S席8500円/2023-11-11 19:00/★★★★

出演:浜田信也、渡邊圭祐、池谷のぶえ、松雪泰子、安井順平、大窪人衛、盛隆二、穂志もえか、清水葉月、森下創