青年団リンク キュイ『非常に様々な健康の事情』

非常に様々な健康の事情

三篇から構成される短編集。

冒頭の『非常に様々な健康の事情』は現時点での最新作。3人の元同級生の女性がカフェでかわるがわるそれぞれの不健康な状況について語り合う。彼氏のDV、上司のハラスメント、親族の迷惑な干渉など一見バラバラなことについて語っているようにみえるが・・・・・・。綾門さん自らの演出というのもめずらしいが、詩的で会話をしていてもモノローグに思えてしまう観念的なセリフではなく女性たちの等身大のセリフが飛び交い、エンターテインメントとして十分成立していたことだ。

二番目は『不眠普及』。性交渉で感染する不眠症が蔓延しつつある世界。それを拡大させようという陰謀とスプレッダーとして利用される女性を描いた作品で、みるのは2回目だが、今回は演出が独特でまったく別な作品にしあがっていた。スプレッダーを男性が演じること、投げ捨てられるチューイングガム、そして半透明の袋とケムリで視覚的に表現されたほんらい目に見えないはずの抑圧のイメージ。

最後は『永久に記憶する煙』。コロナ禍最盛期に俳優なしの音声のみの劇として企画された作品とのこと。終末後の世界を舞台にして、食糧と本が大量に残された空間に迷い込んでただひとり生き残った男に、先住者で先に亡くなってしまった人が二人称で語りかけるというスタイル。当然声は男には聞こえない。今回の演出では生身の俳優がその後この場所を訪れた宇宙人役で登場して、独白の一部を本を読む形で受け持つ。これも物語性の強い作品だった。

どれも個性的で多様な三作品だった。綾門優季という作家のこれからの変化の展望を垣間見ることができた気がする。

今回団体名に「青年団リンク」と冠しているが、青年団演出部の解散により、青年団リンクという若手演出家を補助するしくみも消滅し、独り立ちしていくことになる。今回のキュイのみならず青年団リンクが生み出してきた成果は枚挙にいとまがなくて、今後それなしでやっていく日本の演劇界に不安を感じざるを得ないが、まずは感謝の拍手をおくっておきたい。

作:綾門優季、演出:綾門優季、三浦雨林、児玉健吾/神奈川青少年センタースタジオHIKARI/自由席3500円/2023-11-02 19:30 /★★★

出演:岩井由紀子、西村由花、堀紗織/杉山賢、西風生子/小見朋生、山田遥野、坂田機械(声)