城山羊の会『温暖化の秋』
舞台に限らずテレビドラマなんかでもコロナはなかったことにされている作品が多い気がするが、『ワクチンの夜』に続いて、コロナをちゃんと作品の背景としてとりいれているのは希少かもしれない。
これから人に会うのでコロナの検査を受けてきた若いカップルねるりとコウが近くの公園にやってくる。そこに同じ人と会う前に検査を受けた中年夫婦がやってきてひょんなことから会話と握手をかわすことになる。さらにそこに検査後の不倫カップル田中とサキがあらわれる。サキはコウの昔の友人だった。夫婦が去ったあといれかわりでコウの叔父山本がつえをつきながらあらわれる。彼が今日コウたちが会おうとしていた人だった。サキは自分はかつてコウの婚約者だったと口走ってしまい。一悶着の気配がするなか、さっきの夫婦が戻ってきて山本に声をかける。彼らもまた闘病中の山本のお見舞いにやってきたのだった。
それぞれの人物の造形がいい。やさしいがどこか煮え切らないコウ、自分の感情に確信が持てないねるり、一途にコウを想うサキ、自分の死を意識し飼い猫の行く末を案じる山本、奔放な妻を生暖かく見守る夫、愛人に暴力をふるう田中ですらどこか愛らしい。演じる役者もすばらしかった。
真っ赤なリンゴが象徴的に登場する。これは今KAATの芸術監督をつとめる長塚圭史の舞台『はたらくおとこ』に対するオマージュかもしれない。あの作品でもリンゴが重要な意味を担っていた。今回も2度目のリンゴの登場はそこで終わってもいいと思ったくらいのインパクトを感じた。
ねるりの視点からすると、この作品は、マスクをなくして、別のマスクを手に入れるまでの話としてまとめられる。まさにコロナ演劇といっていい展開だった。
作・演出:山内ケンジ/神奈川芸術劇場大スタジオ/指定席6000円/2022-11-26 18:00/★★★★
出演:趣里、橋本忍、岡部たかし、岩谷健司、東野絢香、笠島智、シソンヌじろう