イキウメ『外の道』

外の道

出身地と離れた地方都市で二十年ぶりに再会した同級生山鳥芽衣、寺泊満の会話が物語のペースメーカーになる。最初ありきたりの近況報告なのだが、話すことがなくなり、それぞれが最近体験している奇妙な出来事にうつる。寺泊満は、ある手品師との出会いを機に世界の新しい見方を習得し、その本質的な美しさと醜さに驚き、律儀に仕事を続けることが馬鹿馬鹿しくなってくる。山鳥芽衣は「無」と書かれた荷物が届いた直後から家の中に闇が広がりはじめ、ついには部屋の中で何も見えなくなり、闇の中をさ迷ううちに500メートル離れたビルの屋上に移動する。家に戻ると見知らぬ少年が闇に中にいて、記録を確認すると何年も前から彼女の養子ということになっていた。

満と芽衣の体験はかけ離れているようで人間社会というレイヤーの外の秩序が見えるという点では共通している。彼らはそのせいで家族や社会から離脱せざるをえなくなる。

「無」といってもそれは終わりではない。その中から少年があらわれたように、むしろはじまりなのだった。一般の人間だって「無」の中から物心とともにこの世にあらわれる。このあたりの象徴の使い方が哲学的だった。

山鳥芽衣を演じた池谷のぶえさんがなんといってもすごい。暗闇の中での声の演技には鳥肌が立った。

今年三本目にして、忘れかけてた観劇の本質的なおもしろさを思い出させてくれる作品だった。

作・演出:前川知大/シアタートラム/指定席6000円/2021-06-12 18:00/★★★★

出演:浜田信也、安井順平、盛隆二、森下創、大窪人衛、池谷のぶえ、薬丸翔、豊田エリー、清水緑