ジエン社『物の所有を学ぶ庭』
初のジエン社。気まぐれで直前にみにいくことにしたのだが、大正解、こういう演劇にずっと飢えていたのだ。
地獄との通路が開いて人間に有害な胞子が飛びだし森が全世界に広がる。それとともに「妖精さん」と呼ばれる胞子に耐性をもった不思議な人たちが通路を通ってこちらの世界に避難してくる。死に場所を求めている人間は森の奥深くに迷い込む。この物語の舞台は森と人が住む町の境界にある庭。妖精さんたちと、彼らを人間社会に適応させるために教育を施すNPOの人たちとの「触れあい」を描いている。
ふつうに考えると地獄は原発、胞子は放射能のメタファーで、妖精さんは難民または移民だ。ただしそれらの道具立ては借景で、今回のテーマは「所有」なのだっだ。
妖精さんたちはとても賢くて表面上あたかも人間のもつ概念を理解しているように振る舞うことができるが、ほんとうには理解できていないのだと言う。その中でも所有という概念はわからないようなのだ。他者の敷地の中でしばらく使われてないリップクリームがその他者に属すること、でもそこに入ってきた人がポケットに入れているペンはその人自身に属する。スターバックスで飲み物が入って出てくるマグカップは誰の物なのか。考え始めると妖精さんたちだけではなく実は人間もよく理解できてないのだということがわかってくる。
今回のテーマも興味深いけど、演出と作劇の手法が独特ですばらしかった。平田オリザの同時多発会話をさらに発展させて、それぞれの会話が対位法的にからみあう形になっている。さらに会話の途中で相手が変わることにより場面転換を行うのも効果的だ。
俳優はみなよかったが、特に妖精さんのひとり鈴守を演じた遊園地再生事業団の上村聡さんがかもしだす雰囲気がいかにも妖精的ですばらしかった。そういえば、今回の舞台はむかしの遊園地再生事業団の舞台の空気感と近いものを感じたのだった。
作・演出:山本健介/BUoY北千住アートセンター/自由席3000円+ドリンクチケット500円/2018-03-03 19:30/★★★
出演:鶴田理紗、湯口光穂、蒲池柚香、善積元、寺内淳志、伊神忠聡、中野あき、上村聡