イキウメ『天の敵』
前回みた『太陽』も不老不死がテーマで、今回もそう。前川知大さんは不老不死のオブセッションにとりつかれているのかと思いそうになるが、前回は過去作品の再演だったので、たまたまかもしれない。それに前作が種族的な不老不死だったのに対し今回は個人的な不老不死だ。
ジャーナリストが橋本和夫という経歴不詳の菜食料理研究家に取材にいき、彼そっくりで1950年代に失踪した医師長谷川卯太郎の写真を、あなたの祖父でないかと突きつける。橋本は自分が長谷川卯太郎で今122歳だと驚きの告白をする。飲血により不老不死になっていると言うのだ。そして彼のクロニクルがはじまる……。
題材としてはそんな新奇性はないんだけど、エピソードの選び方や物語の運びが足すべきものもなく引くべきものもないという完璧さで、リアリティを高めてゆく。
特にラストシーン、今までほぼ単なる聞き手だった安井順平演じるジャーナリストが冷蔵庫をあける場面。その冷蔵庫の中身を観客には見せない。そしてそれに続く夫婦二人の場面も説明的な台詞を差し挟まず、ただ「大丈夫よ」とだけ言わせる。最近読んだ村上春樹のインタビューに「優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない」という言葉があったけど、まさにその通りのすばらしい展開だった。
作・演出:前川知大/東京芸術劇場シアターイースト/指定席4800円/2017-05-20 18:00/★★★★
出演:浜田信也、安井順平、小野ゆり子、太田緑ロレンス、有川マコト、盛隆二、村岡希美、大窪人衛、森下創、松澤傑