イキウメ『太陽』
人類が2つの種キュリオとノクスに分かれた近未来。キュリオというのは今のぼくたちと同じ不完全な種族だが、ノクスはより頑健で自己統制がきき老化もしない。ただし、一つだけ大きな弱点があって、太陽の光を浴びると致死的なダメージを受けるのだ。キュリオがノクスになる方法は存在するが、なぜかその数は制限されている(その理由は劇の中で明示されない)。今やノクスがマジョリティーになりキュリオは限られた地域に暮らしている。
幕あき直後のプロローグははノクスの一人が縛られて太陽にやられてもがき苦しみながら死んでゆく衝撃的な場面。本編はそれから十年後、その事件が原因となったキュリオの村の経済封鎖が解除される日から始まる。人が減り困窮する村。村とノクスの街の境界の警備をするノクスの兵士、かつて村から出ていきノクスになった医師、村の娘の母親などが訪れ、ノクスとキュリオの交流が始まる。
この設定は多分SF小説の古典ウェルズ『タイムマシーン』からきたものではなかろうか。その中では狡猾で邪悪な夜の種族モーロックが愚鈍な昼の種族エロイを支配している。
いやあ、素晴らしい作品だった。演劇というのは素晴らしいストーリーを提示するだけではなく、素晴らしい舞台上の瞬間を観客に見せなくてはいけないということをあらためて思い知らされた。この舞台にはそういう瞬間がいくつもあった。冒頭のシーンもそうだけど、そのリフレインとしての克哉が太陽にあぶられるシーン、そして結がノクスになるシーン。最後のシーンで終わっても(というかむしろその方が)十分よかった。
ノクスが不完全な存在であることは何度か言及されるが、もう一つ二つ根源的な例があった方が最後の鉄彦が申し込み書類を破り、金田が日の出をみようとするシーンの説得力が上がった気がする。それ以外は文句のつけようがない。
作・演出:前川知大/シアタートラム/指定席4500円/2016-05-28 18:00/★★★★
出演:清水葉月、大窪人衛、浜田信也、中村まこと、岩本幸子、盛隆二、伊勢佳世、安井順平、森下創