『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』
カントールって集合論の人かと思ったら違った。タデウシュ・カントール。ポーランド出身の前衛的な演出家、美術家で今年が生誕100周年だったらしい。日本では主に寺山修司によって紹介されたそうだ。今回は彼へのオマージュということで庭劇団ペニノのタニノクロウに委託して新たに作り出された(というかワーク・イン・プログレスなので正しくは作り出されつつある)舞台だ。
受付で掌にのる小さなドーム型のライトを渡されて、教室くらいの大きさの真っ暗な部屋の中に誘導される(芸劇の地下にこんなスペースがあることを初めて知った)。室内に座席はなく観客は立って自由に動き回りながら見るスタイルだ。覆いを被されたオブジェが雑然と置かれている中に、マメ山田さんをはじめとする異形の役者たちがあらわれる。白い衣装を着て白塗りの顔で彼らは死者のようだ。室内のオブジェを使ってこの暗闇から抜け出そうとするが、彼らだけではどうにもできない。観客の協力が必要なのだ。
闇から光、死から生への脱出がテーマなわけだけど、終始コミカルで深刻さは全くない。楽しい体験だった。ぼくはむしろ、現代の明るい光の下では失われてしまった昔の見世物のいかがわしい楽しさを闇の中で蘇らせようという意図を勝手に感じてしまってそっちのラインでばかり受け取ってしまっていた。本筋とあまり関係ないが、舞台装置のテレビで流れていた桃太郎や浦島太郎など日本昔話の主人公たちがミッキーマウスをやっつけて笑い者にする見るからに戦争中の国策アニメのような作品が気になる。
実は死者はぼくたち見ている観客の方で、役者たちはぼくたちを外に連れ出すための先導者の役割を果たしていたことに今頃気がついた。
作・演出:タニノクロウ/東京芸術劇場アトリエイースト/立見2000円/2015-12-18 19:00/★★★
出演:マメ山田、プリティ太田、赤星満、ブッダマン、森田かずよ