竹中直人の匙かげん『三人の女』
作:岡田利規、演出:竹中直人/本多劇場/指定席6800円/2008-12-13 19:00/★★
出演:竹中直人、中嶋朋子、佐藤直子、井口昇、矢沢幸治、荻野目慶子
ぼくが演劇をみにいくようになったきっかけをつくってくれたのは竹中直人と岩松了という二人の存在で、この二人がタッグを組んでいた数年前まで、二年に一回年末に上演される「竹中直人の会」をとても楽しみにしていた。
二人が袂を分かってから、竹中直人は独自に「竹中直人の匙かげん」と銘打って、二年に一回の公演を続けたが、2004年の『唐辛子なあいつはダンプカー!』はテレビバラエティーの延長みたいな乗りについていけず、前回2006年の公演はテレビの放送作家の人が脚本ということもあり、パスさせてもらった。その間も岩松了作品はコンスタントに見続けていた。
さて、岩松了と竹中直人の二人の公演が2008年年末の同時期に催されているわけだが、ぼくは今回岩松了をパスして、竹中直人を選んだ。というのは、岩松了の方は一青窈をフィーチャーした音楽劇ということで、音楽の趣味が合わなくて楽しめないだろうと思ったことと、竹中直人の方の脚本がチェルフィッチュ主宰の岡田利規だったからだ。
岡田利規というと、きわめて日常的な内容を一見同じように日常的な語り口で語りながら、奇妙なダンスのような身振りが加わって、ふと表面的な言葉の裏側に深淵がのぞけてしまうような作風なんだけど、今回は竹中直人の要望があったのか、とても岩松了的な作品だった。
三人姉妹が、三女夫婦の別荘で久しぶりに再会する。『三人の女』と題されているが男も三人だ。何かにいらだち続けている三女の夫、次女の元夫にして現恋人、そして謎の同居人。岩松了的な、あり得ない場所から自分たちを俯瞰する、ねじれたセリフが飛び交う。
岩松了は比喩的にそのねじれを表現しようとするけど、岡田利規は直接的にそれを言葉にする。それは難解というか血肉ある人間が口にするにはどこか不自然さを含んでしまうものだけど、その饒舌に超絶技巧のピアノ曲をきいているような快感を感じる。中嶋朋子はほとんど不自然さを感じさせずにセリフを口にしていて、さすがと思わせたが、相手を務める謎の同居人役の井口昇にはかなり荷が重かったかもしれない。滑舌よくセリフをいうだけでなく、不自然さを感じさせずにこの役をできる俳優は、なかなかいないと思う。もしそういう俳優が演じたら、この作品は大傑作になっていたかもしれない。
竹中直人の演出は、かなり的確で、今後に期待がもてた。岩松了と違って音楽の趣味もいい。ちょっと物足りなさが残る舞台だっただけに、二年後といわず、(映画でもいいから)もっと早く次の作品がみたい。