『エンジョイ』

作・演出:岡田利則/新国立劇場小劇場/指定4200円/2006-12-16 13:00/★★★

出演:岩本えり、下西啓正、田中寿直、南波典子、松村翔子、村上聡一、山縣太一、山崎ルキノ、山中隆次郎

はじめて岡田利則の作品を観る人はちょっと面食らうかもしれない。ステージで繰り広げられているのはいわゆる「演劇」とは異質なパフォーマンスだ。ナチュラルな日常会話のようでありながら、どこかずれてゆく言葉、そして身振り手振りでもダンスでもない不思議な身体の動き。決して難解ではないんだけど、今自分がみているものが何なのか戸惑ってしまう。

でも、観ているうちにそれが妙に楽しいことに気がつく。この楽しさを観ていない人に説明するのは難しい。無理矢理挙げると、電車やカフェで会話に聞き耳をたてるときの楽しさ+現代美術などで新奇なものに触れたときの楽しさ+個人や社会のあり方について考えさせてくれる知的な楽しさ+ときおりはさみこまれるギャグの楽しさ(今回のヒットはフリーター三人組の頭文字をとったグループ名「みかか」)、という感じだろうか。

前回もそうだったけど、選ばれるテーマは社会と個人の関わり的なものだ。今回はフリーター。新宿の漫画喫茶でアルバイトをする男女やそのまわりの人々のかかえている不安や小さな喜びが、彼らの会話や独白、動作から浮かび上がってくる。その不安や喜びはとても孤独なもので、スクリーンに資料映像的に投影されるフランスのCPE(26歳未満の若者を雇用後2年以内なら、理由を明示せずに解雇することを認める制度)反対のデモと対比させることで、その孤独を引き立たせている。

第一幕で登場人物たちが、ちょうどぼくの座席から見えないコーナーにかたまっていたのは残念だった。