四月の魚
今日は帝都高速度交通営団が東京地下鉄株式会社(東京メトロ)になった記念日であるとともに四月の魚の日でもあるわけだが、自己欺瞞のかたまりのぼくがこれ以上嘘を積み重ねる必要もないだろう。というわけでほんとうのことを書く。
昼休みは季候がよければ食事のあとひとりでその辺をぶらぶらすることにしている。勤務先が今の場所(浜松町)に移ってきた当初は、山手線の内側、住所でいえば芝のあたりを、コンビニに寄りつつせわしなく歩いていたのだけど、近頃は住所でいうと芝浦、借りてきた猫のようにおとなしく、運河沿いでただただよどんだ水面を眺めていたのだった。
昨日は日の出桟橋の船の発着所にいってみた。外のまぶしさとは対照的な暗さの待合室。何年も前のあまったるいロックンロールが鳴り響き、船に乗りそうもない、仮想の乗客達が長椅子に横たわって、来るはずのない時が来るのを待っている。その時が来たら、ここではないどこか別の場所で目覚めるのだ。
今日は少し足を伸ばして竹芝。おお、広大なデッキから海や船が一望できる。ベンチに座って楽しげに弁当を食べる人々。頬をなぜる海風。圧倒的な光。今までここに来なかった理由が何一つとして思いつかなかった。日がな一日ここで過ごしたら、海の男といっても嘘にはなるまい。それがだめなら、せめては四月の魚と名乗ろう。手の甲のうぶ毛が鱗のように金色に光っている。