『演劇1』

「演劇」と題されているが映画だ。

10月28日雨の中シアターイメージフォーラムでみてきた。

平田オリザ率いる劇団青年団をテーマにした想田和弘監督によるドキュメンタリー映画二部作の第一弾。もうひとつの『演劇2』の方も同時上映されている。そちらも観る予定。

よくみる劇団は何かときかれてまっさきにあげるのは青年団だし、そこから巣立った劇団を含めると、みている芝居の半分くらいは青年団系ということになる。今までことさら舞台裏を知る必要はないと思ってきたし、みてしまうことで、舞台をみるときの感動が薄れたらいやだという気持ちも働きつつ、オリザさんや俳優たちのふだんの姿がみたいという下世話な欲望には逆らえず結局みにいくことを選択したのだった。

稽古場の隅でちゃぶ台の上に古い型のPCをのせて、妙な笑みを浮かべながら稽古中の役者とPC上の台本を交互にみているのが、オリザさんの演出時のスタイルだ。軽いかけ声で進行をとめると、直前の演技に対して指導するんだけど、その内容がおもしろい。発声や所作のタイミング、スピード、イントネーションについてまるで指揮者がオーケストラを指揮するみたいに緻密に注意するのだ。意味とか感情とかについてはほとんど言及しない。きわめて即物的な指導なのだ。そういうものだとは、聞いていたけど、如実にみせられると、とても興味深いものだった。青年団の芝居に感じる独特のリアリティー、芝居の臭いのしない芝居の源泉はこの緻密さにあったのだ。

演出家としての面だけでなく、青年団やアゴラ劇場の代表としての面も描かれている、経理のチェックなど細かい運営に関することをオリザさん自らおこなっていた。そのスピード感や判断のスピードをみていると、たまたま演劇をやっているけど、なにをやらせても優秀な人なのがわかる。アゴラ劇場の中の劇団運営のためのスペースは思ったよりかなり狭くて、スタッフ(のほとんどは所属俳優や演出家など)がひしめき合いながら仕事をしていた。なんだかスターアップ間際のベンチャー企業のようで、オリザさんはその社長みたいだった。

制作志望の学生の面接シーンで、給料の低さと長時間労働、そしてリスク(助成金次第でリストラされる可能性がある)などを説明した上で、5年間アゴラで勤め上げれば、立派に実績として評価されてほかの大きな劇場などに移るというイグジットを語るところなんて、ほんとうにちょっとブラックなベンチャーの乗りだった。これでも青年団ははるかにましな部類で、演劇界はブラックでないと成り立たない世界なのだ。

岡山での一日だけの舞台のためにセットを組み立てるシーンがあったけど、女性を含めた俳優自らトンカチにぎって力仕事や大工仕事をこなしているのだった。妥協は一切なし。与えられた条件の中で完璧なセット、完璧な照明を作りあげてようとしているのが印象的だった。

まとまらないが、映画自体がそういうコンセプトなので、とりあえず見たものを見えたままに書いてみた。続きは『演劇2』をみたときに。