「すべては美しく、傷つけるものは何もなかった」

カート・ヴォネガットが亡くなってしまった。そっけない死亡記事にはボネガットなんて書いてあるので、誰かほかの人のような気がしてしまうが(そうだったらどんなにかいいのに)、2007年4月11日に84歳で亡くなったのはまぎれもなくヴォネガットその人だった。

いまだどこにもいきつけていないぼくが、原点のひとつなんていうことはおこがましくてできないけど、彼の作品に大きな影響を受けてきたことはまぎれもない事実だ。ぼくのベスト5を順不同にあげてみよう。

最近入手しにくくなっていたようだけど、今回の死をきっかけに改善されるかもしれない。皮肉なはなしだが、ヴォネガットは「そういうものだ」といいながら苦い笑みを浮かべているだろう。

どの作品も、戦争や人間の愚かさを笑い飛ばし、その悲哀を不思議なオブラートにくるんで提供してくれた。そのオブラートはとびきり苦くて、まるで真理の味のようだった。

宗教的懐疑論者だった彼は、冥福を祈るなんてことはいってほしくないだろう。タイトルに掲げたのは、『スローターハウス5』の中である登場人物の墓碑銘に使われたことばだけど、でもそれよりも、彼の公式WWWサイトに掲げられている、出入口が開いて中の鳥が飛び去ってしまった鳥かごの絵が、彼の死にはふさわしい。