惑星

冥王星が惑星ではなくなってしまったらしい。といっても冥王星そのものに変わりがあるわけではなく、「惑星」という言葉の定義が変わってしまったのだ(というより明確になったといったほうがいいか)。新しい定義は「太陽の周りを回り、十分重いため球状で、軌道近くに他の天体(衛星を除く)がない天体」といういささか直観的でないものだ。なんだか冥王星を惑星からはじきだすために無理矢理作った定義のような気もするが、冥王星は他の惑星と比べると極端に小さく、しかもその後同じような天体がいくつか近くで発見されていることもあり、「惑星」のインフレーションを避けるためには仕方ないところなのだろう。

たとえていうと、こんな感じだろうか。格調高い会員制クラブ「惑星」は新しいメンバーを募集していた。久しぶりにあらわれた候補者プルート君は既存のメンバーに比べるとかなり社会階層が下で性格も変わり者だったが、その当時は入会条件がはっきりしていなかったので、とりあえずメンバーとして迎え入れた。ところが同じような参加希望者がたくさんあらわれるようになったので、苦肉の策として、クラブは「一戸建てに住んでいる」という条件を明確に謳うようになった。これで、集合住宅住まいのプルート君は退会になり、ほかの希望者も門前払いされてしまった。ううん、なんかどうしても差別的になってしまう。

さて、それで墓場の中で喜んでいる(もちろん比喩的な表現)のがホルストかもしれない。各惑星をテーマにした組曲『惑星』の作曲者だ。この曲が作曲された1916年にはまだ冥王星は発見されていなかったので、組曲の中に『冥王星』は含まれなかった。今まではこの曲を紹介する度に、『冥王星』がない理由を説明しなくてはならなかったが、今後はそのめんどうな責務が免除される。

かわいそうなのがコリン・マシューズという現代イギリスの作曲家だ。彼は、組曲『惑星』とあわせて演奏するために依頼されて、『冥王星』という曲を書いたのだ。この曲が『惑星』に併録されているCDも存在するが、(今回の件で一時的に話題になるかもしれないけど)今後そういうことは期待できなくなるだろう。

そういえば、組曲『惑星』に含まれない星がもうひとつ存在する。この地球だ。ホルストは天体としての惑星をイメージしたわけでなく、占星術からインスピレーションを得たので、当然地球は除外されてしまうわけだ(空を見上げても地球は見えない)。