ポール・オースター(柴田元幸、畔柳和代訳)『空腹の技法』
ポール・オースターの初期のエッセイを中心に編まれたアンソロジー。原書は出版社が変わったり版を重ねるごとに内容が追加されているらしい。本書も文庫化にあたって、3編追加されている。
エッセイの大半は小説発表前に書かれた、日本であまり紹介されていない詩人たちに関するもの。その部分は正直退屈で読み進めるのに苦労した。だが、その中からいろいろわかることも多かった。
ひとつは取り上げている詩人の中のユダヤ人率が高いこと。ポール・オースター自身ユダヤの家系の出身だが、その作品の特色は宗教性と対極の、虚無のリアリティにある。だが、その虚無はユダヤ教の神をネガのように反転させたものなのではないかと思ったりした。本書ではカフカも取り上げられているが、カフカがまさにそうだったように。
もうひとつは、いろいろな詩人が取り上げられているにもかかわらず、その評価のトーンは共通している。そして、それはポール・オースター自身の作品にあてはまることばかりだ。
『マラルメの息子』、『家庭人ホーソーン』(「ホーソーンは親なら誰しもやってみたいとことをやってのけたのである-すなわち自分の子供に永遠の生を与えるということを」)など詩以外のテーマについて書かれたエッセイ(正確にはポール・オースターが編集に関わった本の序文)やインタビューはおもしろかった。
あと、詩人の中でも、チャールズ・レズニコフはいい。ひとつ気に入った詩を書いておく。
賛美の歌(テデウム)
勝利ゆえにぼくは
歌うのではない、
勝利などひとつもないから、
ありふれた日光のため、
そよ風のため、
春の気前よさのために歌う。
勝利のためではなく
僕としては精一杯やった
一日の仕事のために。
玉座のためではなく
みんなのテーブルの席で。
★★