若桑みどり『絵画を読む~イコノロジー入門』
バロック期の写実的な絵画が好きでよく観にいったりするのだけど、見えるものをそのまま描いたものはほとんどなくて、ひとつひとつの図像に意味が隠されているという話をきいて興味をもった。この本を手に取った理由はそういうところにある。
絵が直接的に描いているものが何かということを研究する学問が図像学(イコグラフィー)、それが歴史的、社会的にどういう本質的な意味をもっていたのかを研究するのが図像解釈学(イコノロジー)というようにわかれるらしい。書名でわかるように本書は後者の研究成果をおもに紹介している。
ギリシア、ローマ神話や聖書などのエピソードが主題の絵の意味がわからないのは仕方ないが、果物が描かれた静物画が世俗的快楽のはかなさを表しているなんて想像したこともなかった。確かによくみれば、黒くなって虫がくっていたり、かごがテーブルからかすかにはみ出して不安定になっていたりするのだが。
それ以外にも、メメント・モリ(死を記憶せよ)的な意味をもつ作品がかなり多い。キリスト教に限らないが、宗教が死を強調して信仰を得ようとしてきた歴史が絵の中にはっきり表現されている。
そういう抹香臭い作品はおいておいて、面白いのが、錬金術等オカルティックな哲学に基づく作品だ。今でいうとダリやマグリットのようなシュールな画面に、ちゃんと整合的な意味があったりするのだ。
いずれにせよ、絵をみるときにはこういう知識を持っていると、なおさら楽しくなるのはまちがいない。
★★