池澤夏樹『花を運ぶ妹』

花を運ぶ妹 (文春文庫)

村上春樹の『ハードボイルドワンダーランド』のように、二つの異なった世界が交互に綴られる。ひとつはカオルという女性がバリという勝手知らぬ土地で孤軍奮闘するリアルな世界。もうひとつは哲郎という男性の過去を振り返る、内省的で、いろいろな出来事の意味が神秘的にからまった世界。この二人は兄妹で、同じ一つの問題に直面している。哲郎が麻薬運搬の疑いでバリの警察に拘束され死刑判決の可能性があるのだ。

この二つの世界は決して交わることはないのだけど、同じ暗黒に脅かされ、最後には同じ光を別々の角度から浴びる。物語の筋書とは一見無関係に見える冒頭のカオルの洗礼の挿話。あの水の中から浮かび上がるという再生の比喩が物語の最後で繰り返される。

表面上のストーリーも飽きさせないが、生と死、東と西、善と悪という概念をたくみに対比させながら、バリをそれらを融合する場所として位置づけていく比喩の力がすばらしい。今まで読んだ中で池澤夏樹の最高傑作だと思う。

★★★★