怪奇探偵小説名作選〈8〉日影丈吉集―かむなぎうた
日影丈吉という作家を知ったのは和田誠監督の『怖がる人々』というオムニバス映画の中の『吉備津の釜』という話が最初だ。よくできた話だなと思いつつも、日影丈吉の本を読もうとか、手にとろうとかいうことは特にしてこなかったのだが、10年近くたって、ふとした気まぐれから、文庫になった短編の選集を読むことにした。
いろいろな引き出しをもっている人らしくジャンルは伝奇もの、ミステリー、SFとバラエティに富んでいるし、舞台となる場所も、東京、千葉の片田舎、台湾、フランスと神出鬼没だ。文章がまたすばらしい。当時のエンターテインメント系の作品を書いた人の中では随一といっていいほど骨太で上品な文体だと思う。
原作を読んで『吉備津の釜』のすごさを再確認。思いがけない幸運に出会って苦境から脱することができそうになった主人公が、その幸運をもたらしてくれる人に会いにいく途中、今でいう水上バスの中で昔懇意にしていた人によく似た人を見かけたことをきっかけに、その人から聞いた昔話とも寓話ともつかない話を思いだす。その話と今の自分の状況がぴたりと符合してゆくあたりの流れがすばらしい。また、葛藤の末、主人公が紹介状を開けて中身をのぞいた部分は、それ自身超自然的なものではないのに、背筋の凍るような恐怖を感じた。
ほかには『かむなぎうた』、『狐の鶏』など田舎を一種の異界として描いた作品がすばらしい。
今もっと読まれていい作家だと思う。
★★★