宮部みゆき『人質カノン』

人質カノン

積読解消月間といいながら、積読しているはずの本が見当たらず、結局買いなおすことが続いていたが、これはほんとうに積読解消だ。いまさらながら宮部みゆきは長編にかぎらず短編も面白く、なぜ積読になってしまったか全然わからない。

短編を読んでいて感じるのは、月並な言葉でいうと登場人物に対する愛情で、ここで登場人物を突き放すような終わり方をさせれば深い印象を残すことができるだろうという場合でも、決してそういう後味の悪さを残すことはせず、常に良心的に書こうとしていることだ。

ミステリーというよりどちらかといえば日常的な視点で書かれたとりとめのない作品が多いのだが、一押しは、失恋して自殺しようとしている女性が、いじめられっこを助けて夜の学校に忍び込む『生者の特権』だろうか。正論だとわかっていてもどうしてもできないこと。できないことを可能にするために必要な回り道。

★★★