2003年7月13日 吉田修一『熱帯魚』 青い涼しげな表紙に惹かれて買った。 自己中心的な男が主人公の短編が3つ。そんな男たちの身勝手な日常が書き込まれている中に唐突に顔を出す鮮烈な視覚的イメージ。プールの水の底でゆらゆら熱帯魚のように泳ぐ色とりどりのライター(『熱帯魚』)、地図の上に置いた空き缶が雪の中に埋もれる(『グリーンピース』、個人的にはこれがベスト)。車がガードレールに激突して血の泡を吹く「奥さん」の言葉を聞くという幻想(『突風』)。そのイメージの冷たく無情な感触がどういうわけかとても心地よかった。 ★★