笙野頼子『居場所もなかった』

居場所もなかった

『タイムスリップ・コンビナート』の表題作から渇いてシュールなユーモアを感じて、別の作品が読みたくなって買ってみた。

作者自身の投影と思われる女性作家が主人公で、今まで住みなれた部屋の追い立てをくらって、新しい部屋を探そうとするが、「オートロック」という一点にかたくなにこだわり過ぎるせいで、一向に見つからない。そして、カフカの小説のような不条理な状況がいりまじりはじめる…。

あくまで私小説的な「いま・ここ・わたし」から出発しながら、不意にまぎれこむ幻想にひきつけられる。でも、それはどこか別の世界に連れて行ってくれるものではなく、閉塞感にあふれた幻想だ。それを他人事として見られる人はいいけれど、ぼくなどはそういう閉塞感はとても身近なもので、読み進めながら、自分の閉塞感をついそこに重ねてしまい、同じように息苦しくなってしまう。前半読み進めるのに苦労したが、後半はなんとか調子が乗ってきた。

もう一編収録されている『背中の穴』も、引越しがテーマ。だがこちらの方が幻想がぶっとんでいていい。