姜尚中・森巣博著『ナショナリズムの克服』
偏見とか差別などのいやな感情を正論のように語る人たちが増えているような気がして、息苦しさを感じていた。その空気から抜け出す清涼剤のようなものがほしくなって買ってみた。
姜尚中という在日韓国人の政治学者と、森巣博というオーストラリア在住の作家という、いわば日本をちょっと外からの視線でみることができる人たちが、日本のナショナリズムの流れや現状について対談したものをまとめた本。多岐にわたるとても深い議論がされているが、概念をさらりとなでるだけになってるところもあるので、そこは対談の中でとりあげられているような本を読まなければならないと思う。そういう意味でこの本は入口を提供するものだ。
姜尚中が自分の在日韓国人としての遍歴を語るなど、読み物としてもとてもおもしろい。ただ、気になったところが二点。
- 民族概念を抹消すべきだといいながら「一方的に抑圧され収奪された(そして現代もされ続けている)少数民たち、および『在日XX民族』という名で排除されつづけてきた人々」の民族概念を肯定的にとらえるいうことの理由づけがよくわからない。
- ナショナリズムが浸透するのは個人としての弱さ(恐怖感、卑小感)からくるような気がする。対談をしたのは、個人としてとても強さをもった二人なので、ナショナリズムが克服できることに楽観的だったけれど、実際のところどうなのだろう。