沢木耕太郎『血の味』

血の味 (新潮文庫)

少年時代に殺人を犯してしまった男の回想という形で物語は語られる。主人公の少年はどこか『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンを思い起こさせる。こちらは寡黙で饒舌なホールンデンとは正反対だが、周囲への不適応、ものの本質をみぬく大人びた視線、自分自身への苛立ちは共通だ。最初は、そういう少年が殺人という罪を乗り越えていく教養小説だと思いこんで読んでいた。でも、最後の最後でその予想は裏切られ、不可解ななぞの中に投げ出されてしまう。

もちろん、伏線はあったのだが、てっきりそれは比喩的なものだと思い込んでいた。それがそのままきいてくるとは…。

★★