ダーグ・ソールスター(村上春樹訳)『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』
ソールスターは現代ノルウェイの作家。本邦初訳だ。タイトルは著者の11番目の長編小説にして18番目の本というそのままの意味。
翻訳者としての村上春樹はチャンドラーなど有名どころを訳すのと並行して、こういう日本でほとんど知られてない作家や作品を紹介している。マーセル・セロー『極北』もそうだった。こちらは文明崩壊後を描いたSF的な作品で、今回のリアルな舞台設定の作品とは異なるが、それでも過剰な伏線とかフラグ的なものを排して自由に物語を展開させてゆくという点が共通している。村上春樹は読者としてそういう作品が好きなのかもしれない。
ビョーン・ハンセンという中年男が主人公。彼は32歳のときに家庭とキャリアを放棄して愛人と暮らすために地方都市に移住する。今ではその愛人とも別れ、ひとりでそれなりに充実した生活を送っている。そんな彼は、ある突飛でスキャンダラスな選択を思いつき、それが頭から離れなくなる……。そんな中、離れて暮らしていた息子が学校に通うために同居することになる。
といったきわめてリアルなストーリー。ふだん、人の感情や思考の流れの表層だけ追っていって、要所要所で深くえぐっていくようなその筆致が、独特で、物語に謎とリズムを与えている。
村上春樹の訳文いつもながらリーダブルで一気に読んでしまった。