ポール・オースター(柴田元幸訳)『鍵のかかった部屋』
『写字室の旅』に触発されて再読。『ガラスの街』と『幽霊たち』とともに、ニューヨーク三部作を構成する作品。三部作といってもストーリーはまったく関連していない。ミステリー仕立ての構成が共通しているのと、舞台がニューヨークであること、そして『ガラスの街』の至要な登場人物が本書にも端役として登場することくらいだ。初めて読んだときはちょっと肩すかしをくわされたような気がしてしまったのだが、『ガラス』と『幽霊』はちょっと前に再読してあらためてその構成のたくみさに気がついた。
この『鍵のかかった部屋』は全二作と比べるとリアルな設定、人物造形で、物語の中に没入させられる。もう10年以上あってない幼なじみファンショーの妻を名乗る女性から詩人工のところに突然手紙が届いて、ファンショーが失踪してもう何ヶ月もたつと書いてある。失踪したときはおなかのなかにいた子供もうまれてすくすく育っている。ファンショーが残した小説や文章があるので、みてほしいと言う……。
再読してわかったが、表面的なストーリーの面白さだけでなく、さまざまなレベルの文学的ほのめかしにあふれた傑作だった。なぜ初読のときはそれに気がつかなかったのだろう?それが謎だ。
ファンショーが書いた長編小説『どこにもない国』のことが『写字室の旅』に出てきて、その登場人物だというジェームズ・P・フレッドという元警官まで登場する。まったく記憶になかったが、それもそのはず、彼の名前はただ一度「フレッドの夢」という断片としてだけ登場するのだ。ここにきてフルネームと職業があきらかになったわけだ。