阿古真理『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』

昭和の洋食 平成のカフェ飯: 家庭料理の80年

昭和から現代にかけて、雑誌、レシピ本、映画、ドラマ、小説、漫画の中に描かれた家庭料理の変遷を追いかけてゆく。

昭和といっても戦前についてはプロローグで軽く触れられるだけだ。本編は戦後からはじまる。第一章は昭和中期、昭和20年から50年まで。高度成長期で総中流意識が浸透し専業主婦が一般的だった時代。質素な和食中心だった日々の献立の中に洋食が入り込んでくる。1957年にはじまった『きょうの料理』ではホテルの料理長クラスの人が難易度の高い料理を紹介し、主婦たちは貪欲に知識を吸収した。

第二章は昭和後期、昭和50年から平成元年まで。家庭料理は成熟に向かい世界各国のレシピがとりいれられる。料理本はメルヘンチックな現実離れしたものが多くなる。ホームドラマは衰退し、恋愛がドラマのモチーフになる。

第三章はバブルがはじけた1990年代。不況の直撃、企業社会化によるライフスタイルの変化で、食事の家庭外への外部化が進行し1990年に4割を越えるようになる。女性が外で働くようになるとともにデパ地下が充実し。手の込んだ料理はすたれた。

第四章は2000年以降。長引く不況で社会不安が増し、映画や小説などで、家族の中のしこりや角質などがリアルに描かれるようになる。女性は料理への意欲をなくし、自分の味覚や家族の健康に無関心になっている。筆者はそういう女性たちに「当事者意識がない」と手厳しい。一方、家族の団らんが失われ一人で食べることが多くなり、学生がトイレで食事をするというニュースが報道されるようになる。そんな中、テレビでは初心者向けの料理が紹介されるようになる。そして男が料理するのが一般的になり、スローフードのブームも起きた。カフェ飯と呼ばれる洋食や外国料理のエッセンスを詰め込んだ新しいスタイルの和食が生まれた。問題にばかり目を向けず、新しい可能性に目を向けようというところで、本編は閉じられる。

是ペンにちりばめられたドラマ、小説、漫画の紹介がおもしろかった。特に第四章のゲイカップルの食事を描いたよしながふみ『きのう何食べた?』や木皿泉脚本の『すいか』というドラマ(2003年放映。もう10年前なんだと驚いた)。どちらもこれまで理想とされた家族という形は崩壊しつつあるのかもしれないが、もっと多様な可能性があるんじゃないかと思わせてくれる作品だ。

食だけじゃなく、それを通じて日本における家族という形態の変化をあぶりだした、実はとても壮大な本だった。

★★★