フェルナンド・ペソア(澤田直訳)『[新編]不穏の書、断片』
なぜか今年ペソア関連のイベントや出版が立て続けにあって、といってもぼくが知る限りそれぞれひとつずつではあるが、それでもすごいことで、ペソアを題材にした演劇が上演され、本書が平凡社から刊行されたのだ。ぼくは、演劇をみにいって、もちろん本書も購入した。
大きく二部構成。前半はペソアの著作からの断片の引用141編。長くても数行の小気味いい警句が続く。ペソア自身名義の詩や散文だけでなくペソアの異名者(アルベルト・カイエロ、リカルド・レイス、アルヴァロ・デ・カンボス、ベルナルド・ソアレス)名義の作品からも集められている。
後半はソアレス名義の『不穏の書』からの抜粋。ソアレスというのはペソアの異名者の中でも独特で、ほかの異名者はペソアとまったく異質な経歴や体格、思想をもった人間ということになっているが、ソアレスはかなりペソア自身と似通ったパーソナリティーなのだ。ペソア自身は通信文の翻訳者として細々と身を立てていたが、ソアレスは小さな会社の会計士をしている。ソアレスが夜な夜な書き綴った手記が『不穏の書』ということになっている。さまざまな紙片に書かれた未整理の断章が500以上あるのだが、本書にはそのうち126編が収録されている。同じ断章でもこちらはかなり難物だった。まず長い。といってもせいぜい数ページだが、同じような話題も多くてどこまで読んだか毎回本を開く度にわからなくなっていた。作品のせいだけでなくぼくの問題だったのかもしれない。この一ヶ月暑さのせいもあってかなり集中力が落ちていたのだ。それでもちゃんと目から脳に飛び込んできた言葉はほんとうに素晴らしくて、思わずメモしたくなり twitter に書き込んだ。
一回読んで終わりという本ではない。何度も何度も折に触れてはランダムにページを開いてそこにある断章を味わうための本だ。座右の書として手の届くところにおいておこう。
★★★